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皆さま、日頃より大変お世話になっております。
JCDAの佐々木です。

本日、アジア太平洋地域のキャリア開発に関わる専門家が集う国際会議にて、
「How Inclusive is Inclusion?(インクルージョンはどれほどインクルーシブか)」
というテーマのパネルセッションに登壇いたしました。

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APCDAマレーシア大会2026

シンガポール、カナダ、アメリカ、インド、そして日本。
それぞれの国の実践や課題が共有される中で、あらためて感じたのは、
インクルージョンという言葉の広がりと、その奥行きの深さでした。

■ 制度としてのインクルージョン、実践としてのインクルージョン

各国の報告では、

・法制度としての整備(シンガポール)
・多文化主義を基盤とした社会設計(カナダ)
・社会的分断の中での実践の困難さ(アメリカ)
・歴史的格差の是正としての取り組み(インド)

といった、多様な視点が提示されました。

いずれも重要なのは、
インクルージョンが「理念」ではなく、
制度・政策・実務として具体的に進められているという点です。

一方で、議論を通じて浮かび上がってきたのは、
制度だけでは届かない領域があるということでした。

■ 「支援する」から「ともに在る」へ

日本の文脈では、インクルージョンはもともと
「インクルーシブ教育」から始まったと言われています。

違いのある人も同じ場で学ぶ。
その理念は、現在では「社会的包摂」へと広がっています。

しかし、少子高齢化が進む日本において、
インクルージョンは単に「誰かを支援すること」だけではありません。

それはむしろ、
すべての人が役割を持ち、社会とつながることです。

「支える側」と「支えられる側」という関係を超えて、
それぞれが社会の一員として関わっていく。

そうした視点への転換が求められていると感じています。

■ コグニティブ・ダイバーシティという視点

今回の議論の中で、私自身が強調したのは
「コグニティブ・ダイバーシティ(認知の多様性)」です。

一般的にダイバーシティというと、
性別や年齢、国籍といった外面的な違いが語られます。
同様に、一人ひとりの価値観も異なります。

そして、実際には、
私たち一人ひとりの中にも、

・価値観の揺らぎ
・相反する思い
・社会通念と本来の自分

といった内面的な多様性が存在しています。

そして、
自分の中にある多様性に気づくことが、
他者を受け入れる第一歩になるのではないか。

私はそのように考えています。

■ インクルージョンは「再接続」のプロセス

日本の実践事例として紹介したのは、
「休眠預金活用事業」を通じた取り組みです。

長年使われていない資金を社会課題の解決に活用するこの制度は、
ある意味で「社会の中で切り離されていたものを再びつなぎ直す仕組み」と言えます。

JCDAでもこの制度を活用し、
がん治療と仕事の両立支援に取り組んできました。

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JCDA治療と仕事の両立支援

治療を経験した方の中には、

「もう以前のように働けないのではないか」
「自分は何者なのか」

といった、深い問いに直面される方も少なくありません。

私たちは、キャリアカウンセリングと小さな仕事体験を組み合わせながら、
その方が

・過去を振り返り
・現在を受けとめ
・未来と再びつながっていく

そのプロセスを支えています。

ここで実感するのは、
インクルージョンとは単に機会を提供することではなく、

「人と社会との再接続を支えること」なのだということです。

■ 私たちは無力ではない

国際情勢を見渡すと、
分断や対立が目立つ場面も少なくありません。

その中で、
「自分たちに何ができるのか」と感じることもあるかもしれません。

しかし今回のパネルを通じて、あらためて確信したのは、

変化は必ずしも大きな制度や政治から始まるものではない
ということです。

一人の人が自分自身を理解すること。
その視点が変わること。

それが、隣にいる誰かとの関係性を変え、
小さな変化が積み重なっていく。

私たちキャリアカウンセラーは、
まさにそのプロセスに関わる専門職です。

日々の対話の中で起きる、ほんのわずかな気づきや変化。
それらの積み重ねが、
よりインクルーシブな社会を形づくっていくのだと思います。

■ おわりに

今回のパネルでは、各国の多様な取り組みとともに、
インクルージョンの多層的な姿が浮かび上がりました。

その中で、私たちにできることは決して小さくありません。

むしろ、
一人ひとりの内面に寄り添い、
その人らしさが発揮されるプロセスを支えることこそが、

これからの時代におけるキャリアカウンセリングの大きな役割であると感じています。

これからも皆さまとともに、
この実践を積み重ねていければ幸いです。

▼参考:人と社会のつながりを考えるプログラム
共に生きる~私の世界、世界の私について~