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『JCDAジャーナル』で連載中の「キャリアカウンセラーの倫理を考える」は、キャリアカウンセリングに携わるすべての方に、ぜひ一度読んでいただきたいシリーズです。

今回は、第9回の記事をWebでもご紹介します。執筆は、日本キャリア開発協会 理事長の佐々木 好。

国家資格キャリアコンサルタント試験をはじめ、キャリア支援に関する資格取得を目指す方を対象に、勉強会やロールプレイ練習会、個別指導などを行っている方、また、これからそうした活動を始めたいと考えている方には、特におすすめしたい内容です。

「教える」「支援する」立場だからこそ考えておきたい倫理について、あらためて考えるきっかけとして、ぜひご一読ください。


国家資格キャリアコンサルタント試験をはじめ、キャリア支援に関する資格取得を目指す方を支援する機会は少なくありません。
勉強会やロールプレイ練習会、個別指導などを通じて、有償・無償を問わず、実に多くの有資格者が後進の育成に関わっています。
受験者の力になりたい、合格に向けて支えたいというあたたかい善意から、熱心に学びの場をつくってくださっている方も多いことと思います。
ご自身が受験者だった頃に支援を受け、その経験を「恩送り」として、今度は自分が受験者の学びを支えている。
皆さんの日頃のご尽力に、心から感謝申し上げます。
本稿では、その学びの場が、受験者にとって安心して挑戦でき、同時に、未来のキャリア支援者としてのあり方を学ぶ場であり続けるために、私たちは何を大切にしていきたいのかを、倫理の観点から考えてみたいと思います。

JCDA は 2000 年の設立以来、2016 年に国家資格キャリアコンサルタント制度が始まる以前から、CDA 資格認定試験を実施してきました。JCDA 自身は試験機関であるため、
特定の試験対策や受験指導そのものに直接関わることはありません。

しかし、これまで数多くの受験者や資格取得後に会員として活動される皆さまとの交流を通じて、受験支援が持つ意義や、そこに込められた思いに触れる機会がありました。
その中で改めて感じるのは、受験支援は試験合格だけを目指す活動ではありません。もちろん、合格は受験者にとって大切な目標です。
しかし、受験支援にはそれ以上の意味があります。そこに集うのは、これから多くの相談者と向き合う専門職の卵たちです。
その意味で受験支援は、専門職養成の入り口でもあります。
受験支援の場で受験者が体験する関わりそのものが、その人にとって「キャリア支援者とはどうあるものか」を学ぶ機会にもなっています。だからこそ、この機会に、私たちがどのような姿勢で受験者と向き合い、どのような学びの場をつくっていけるのかを、ともに考えてみましょう。

■「正しく教えること」と「育てること」

受験支援では、「こう答えた方がよい」「この表現の方が評価されやすい」といった助言をする場面が多くあります。
受験者が不安を抱えながら学んでいるとき、経験者からの具体的な助言が支えになることも多いでしょう。

一方で、その役割が大きくなるほど、少し立ち止まって考えたいことがあります。有効な助言であっても、それが唯一の「正解」として伝わっていないか。
あるいは、「教えること」が目的になっていないか、ということです。
キャリア支援は、本来、相手が自ら考え、自ら意味づけし、自ら選択できるよう支援する専門職です。ところが受験支援の場では、ともすると「指導者が正解を持っている」「受験者はそれを学ぶ側である」という構図が生まれやすくなります。
もちろん、経験の差による視点や知見はあります。しかし、受験者がただ受け身になってしまうとしたら、それはとてももったいないことです。

CDA 倫理基準やキャリアコンサルタント倫理綱領では、相談者の自己決定権を尊重することが示されています。相手の自己決定を支援する専門職を育てようとするなら、その学習の過程そのものも、主体性を尊重するものでありたいと思います。
受験者が「指導者の言う通りにやる」のではなく、「なぜその関わりが大切なのか」を自ら理解し、自分の言葉で語れるようになる。そのような成長の場面に接することは、支援に携わる私たち自身にとっても、大きな喜びではないでしょうか。

■相手の可能性を閉じない関わり

受験支援に限らず、人を支援する仕事に携わっていると、経験を重ねるほど、相手の傾向や課題が見えてくることがあります。
「あなたの課題は○○ですね」
「あなたは○○を大切にしているんですね」

こうした言葉は、相手を理解しようとする中で出てくるものです。
支援者としての経験や学びから得られる大切な視点です。

ただし、それが相手の全体像ではないことも、心に留めておきたいところです。相手のためを思って伝えた言葉であっても、受け取る側は「未熟だと判断された」「自分はそういう人だと決められた」と感じることがあります。
受験者は、学びの途上にある未来の専門職です。だからこそ、私たちは「この人はどのような思いで、今この関わりをしているのだろう」「どのような経験や理解が、この応答につながっているのだろう」
と、もう一歩、相手の内側や可能性に関心を向けていきたいと思います。
後進を育てる場は、同時に、私たち自身が支援者として育ち続ける場でもあります。

■フィードバックは何を育てるのか

たとえば、こんな場面を想像してみましょう。ロールプレイ練習の場で、受験者が相談者の話を十分に聴く前に助言を急いでしまったとします。
そのとき、指導者が「相手の気持ちが十分に聴けていませんね」「相手は助言を求めていたわけではないですよね」と受験者に伝えたとします。
指導者としては、課題に気づいてほしいという思いだったかもしれませんね。

皆さんだったら、どんなふうに関わるでしょうか。同じ場面でも、たとえば「〇〇のやり取りがあったとき、〇〇さんはどのようなことを大切にしようとしていましたか」と問いかけることもできるかもしれません。
起きていた行動を具体的に扱いながらも、受験者が自分の関わりを振り返る余地を残してみる。他にも、さまざまな工夫があると思います。
フィードバックは、相手を評価し尽くすためのものではなく、相手が自分の持ち味を大切にしながら学びを深めるための手がかりでありたいと思います。

■指導者の影響力を自覚する

受験者は不安を抱えています。「自分は合格できるのだろうか」「キャリア支援者に向いているのだろうか」「このまま勉強を続けて意味があるのだろうか」
そうした不安の中で、指導者の言葉を受け取ります。そのため、指導者が思っている以上に、その言葉は大きな影響力を持っています。
励ましのつもりでかけた言葉が重荷になることもあります。率直なフィードバックのつもりが、自信を失わせてしまうこともあります。
指導者と受験者の間にも、知識や経験の差による影響関係があります。だからこそ、指導者の側が自らの影響力を自覚し、その言葉が相手にどのように届くのかを省み続けることが大切です。
それは、言いたいことを言わずに曖昧にするということではありません。伝えるべきことを、相手の成長につながる形で伝える。そのために、言葉の選び方や、
問いの置き方、場のつくり方を工夫していくことが、支援に携わる私たちの専門性にもつながっていきます。

■安心して学べる場をつくる

JCDA が提供している学びの場では、安心して学ぶことができるようにグランドルールを設けています。

・一人ひとりの話を尊重し、注意を払ってきちんと聴く
・クラスの中で得た個人の情報はクラスの外に持ち出さない
・相手の意見を一方的に判断したり、決めつけたりしない
・また、自分自身のことも決めつけない
・素直に意見(フィードバック)を言い合う
・どれくらい自己開示するかは自分で決める
・傍観者にならないで、できるだけグループに参加する
・グループの時間を独占しない

私たちはなぜ、このようなルールを大切にしているのでしょうか。改めて見てみると、その多くが倫理とも深く関わっていることに気づきます。
守秘は、安心して語るための土台です。自己開示を自分で決められることは、本人の主体性を尊重する姿勢につながります。相手を一方的に判断したり、決めつけたりしないことは、人間尊重や多様性の尊重と深く関わります。
そして、素直にフィードバックを言い合うということは、相手を傷つけるためではなく、互いの成長を願う関係性があって初めて成り立つものです。
そもそも職業倫理とは、「〇〇をしてはならない」という禁止事項の集まりではありません。その専門職が本来の力を発揮するために必要な考え方や行動の指針を示したものです。

受験支援においても、安心して学べる環境づくりを大切にすることで、受験者は自分の課題に向き合いやすくなります。
そして、その経験は、資格取得後に相談者と向き合うときの姿勢にも、きっとつながっていくのだと思います。

また、学びの目的や範囲を確認することも大切です。この場は何を目的としているのか。試験対策として扱う範囲はどこまでなのか。フィードバックはどのような意図で行うのか。
個人の体験やロールプレイで語られた内容を、どのように扱うのか。

こうしたことがあらかじめ共有されていると、受験者は安心して学びに参加しやすくなります。また、指導者側にとっても、自らの関わりを振り返る手がかりになります。
「受験者のために」という思いを、どのような形で場に表していきたいのかを考え、言葉にして共有していくこと。それも、専門職としての誠実さにつながっていくのだと思います。

■受験支援もまた自己研鑽の場である

受験支援を続けていると、自分なりの指導スタイルや考え方ができあがってきます。それは大切な財産です。
一方で、その経験が固定観念になってしまうこともあります。
以前うまくいった助言が、別の受験者にも同じように届くとは限りません。自分が取り組んできた学び方が、目の前の人に合っているとも限りません。
支援者としての経験が増えるほど、私たちは自分の見方を信じやすくなります。だからこそ、その見方をときどき手に取り、確かめてみることが必要なのだと思います。
受験者を育てているつもりでいて、実は受験者との関わりを通じて、私たち自身も学ばせてもらっている。
そのようなあり方が、自分自身の成長を促すだけでなく、キャリア支援者として学び続ける姿を受験者に示すことにもつながります。完璧な指導者であることよりも、学び続ける支援者であること。その姿勢そのものが、大切なメッセージになるのかもしれません。

■おわりに

倫理綱領は、専門職としてのあり方を示すものです。その精神は、相談場面だけでなく、指導に携わる場面にも通じています。
人間尊重と多様性の尊重。相談者、そして受験者の主体性を尊重する姿勢。安心して学べる場をつくるための守秘や説明責任。自らの影響力への自覚。専門職として学び続ける姿勢。
受験支援は、専門職としてのあり方を学ぶ最初の機会でもあります。何を教えるかだけでなく、どのような場をつくるか。その積み重ねが、学びを支え、資格取得後の実践にもつながっていきます。
受験者をどのような存在として見ているのか。その人の力をどこに見いだし、どのような成長を支えようとしているのか。
そうした問いを持ち続けることは、キャリア支援の質を考えることでもあります。
全国各地で受験者を支えてくださっている皆さんの実践が、キャリア支援という専門職への社会的信頼を支え、次の世代へと受け継がれていきます。これからも皆さんとともに、学び合い、研鑽を続けていきたいと思います。


佐々木 好(ささき・よしみ)
大学を卒業後、デンマーク系海運会社の日本法人にて採用・教育研修、組織開発を担当。その後、アジア太平洋諸国が加盟する国際機関の東京事務局で人事・総務オフィサーを務め、
多様な文化的背景を持つメンバーの HR マネジメントを行う。2010 年に CDA を取得し、2012 年にJCDA に入職。事務局長を経て 2025 年から現職。