目次

思想や理念を土台に、学びと
実践を続けるCDAになってほしい。

「経験代謝」で他人事を自分事にして、
内省を深め、「共に生きる」社会を目指そう。

2001年の創刊から四半世紀が経ち、『JCDAジャーナル』は100号を迎えました。今回はそれを記念した、立野会長と佐々木理事長との特別対談です。

日本キャリア開発協会(JCDA)
会長
立野 了嗣

日本キャリア開発協会(JCDA)
理事長
佐々木 好

会員制度や情報発信の仕組みはJCDAが先んじていた

私がCDAの資格を取得して初めて『JCDA ジャーナル』が届いた時、会員である証を受け取ったような感覚になりました。ジャーナルはどのような意図で始められたのですか?

立野 創刊したのは、JCDA が発足してあれこれ始めようとしていた時期です。地区会はまだなくて、支部を作り始め、組織として体制を作る途上でした。最初は薄い冊子で、表紙も簡単なものでした。
会員間のコミュニケーションツールという意識が強かったと思います。NCDA(全米キャリア開発協会)の CDQ(The CareerDevelopment Quarterly)のように論文や研究発表の場になればいいと思ったこともありますが、それは十分には達成されていません。

佐々木 2017 年に、立野さんの後任として大原さんが理事長に、私が事務局長になりました。大原さんが取り組まれたことの一つが、ジャーナルの刷新でした。(有)エディットの水谷さんと組んで今の形に近づけ、有識者に誌面講座を執筆していただくなど、活動報告だけではなく、勉強も大事にしたいと、かなり注力されましたね。

立野 会員制度については、当初は 4月会員・10月会員というのがなく、試験に合格したタイミングで会員になったので、更新時期が人によってバラバラでした。2つの区分にしたことは、全体の仕組みの大きなポイントになりました。

佐々木 とてもシステマティックな体制でしたね。ただ、2016年にキャリアコンサルタント制度が国家資格になって、入会や更新のタイミングも国の更新制度と合わせて考えなければならなくなりました。
それが本当に大変で、どう調整するのか、立野さん、大原さん達と必死で対応した記憶があります。

立野 国家資格ができた後は、入会のタイミングだけではなく、JCDAがそれまで作ってきた仕組みをほとんど作り替える必要が出てきました。

佐々木 JCDA は理念だけを打ち出しているように思われがちですが、昔からちゃんと制度設計をしてきていますよね。

立野 この分野では、先駆けて制度作りをしていたと思います。

的確な方向に意思決定をすれば 文化は自律的に広がっていく

事務局として総会を実施する中でも、会員組織や支部・地区の仕組みが下支えになっていると、感じます。

立野 ビジョンや思いを支えるための仕組みや機構のようなものは、目立たないところでいろいろ考えてきました。
たとえばCDA養成講座は、通信教育と通学制度がセットとして受け止められていますよね。ですが当初は、それぞれが独立したものでした。
私が養成講座を作る際に、通信教育を基本に、通学をプラスする形にしました。マーケティング戦略と言えるかもしれませんが、仕組みを考えながら、結果としてビジョンも広がっていった感じです。

佐々木 本当にそうですね。私は海外関係の案件や立野さんのサポートをしていた時期に、会員さんから「こういうことをしたい」という希望をよく聞きました。
その時、立野さんは「それは事業にできるのか?」とよくおっしゃいました。良さそうな思いつきも、単発ではなく、事業にして継続する視点を持たなければいけないと。
今、私もいろいろな提案を受ける時、「これはどういう事業になっていくのだろうか」と考えます。

立野 大きな意思決定をする際、方向性が非常に大事です。最初の意思決定を間違えなければ、その先は自然に、自律的に展開していきます。CDAという資格を付ける講座にするか、付けない講座にするのか、という選択もありました。
要素をいくつも挙げて、メリット・デメリットを一つひとつ考え、最終的に資格付きにしたのですが、この意思決定がその後の事業構造を決めていきました。
資格にするには、試験も必要です。合格者の登録制度も、登録した人の組織化も必要です。それらをバラバラに始めるのか、一気に始めるのかも考えました。
当時は、体力もない、お金もない、基礎もない。できるかどうか想像がつかない。でもバラバラにスタートさせては仕組みがうまく回っていかないと考えて、講座・会員制度・試験制4 JCDA Journal No.100(2026-Ⅲ)度などを同時に始めました。最初は無理もありましたが、少しずつバージョンアップしていく形になったのは、結果として良かったと思います。

佐々木 私がCDAの資格を取ったのが 2010年、JCDAに職員として入ったのが 2012年12月。その時には、もう会員が 1万人を超えていて、会員組織ができあがっていました。ですから、立ち上げの苦労を経験していないんです。

立野 CDAの事業を始める前にも、トライアンドエラーがたくさんありました。キャリアカウンセラーの存在は世の中に役立つだろうと思っていましたが、トライアルの段階で、「カウンセリング」そのものを事業にするのは難しいと感じました。ですが、「カウンセラーの養成」なら事業になると思い、カウンセラー養成に方向転換したんです。カウンセラーが生まれてくれば、将来はカウンセリングを事業にできるだろうと。身近な人に関わるCDAのカウンセラーが増えていくことで、キャリアカウンセリングが世の中で一般化すればいいと思いました。
2万人規模のカウンセラーが生まれている今こそ、カウンセリングを事業にするタイミングだろうと思っています。それが「キャリアドック」です。

司会:JCDA 事務局長 原 洋子

佐々木 「今ならいけそうだ」の理由は何だったのでしょうか。

立野 皮膚感覚です(笑)。CDAの考え方や体系は正しい方向に打ち出せ、展開していったと思います。会員がそれぞれ独自に解釈し、発展させたり行動したりすることも、元々の発想の中にありました。

佐々木 指導者層も、ピアファシリテーターも、支部や地区の皆さんも含めて、会員の皆さんは一生懸命に勉強してくださっています。

立野 今、「CDA出身ではないキャリア会員」向けに無料の「リフレッシュセミナー」をしていますよね。1時間半で5人ずつですが、手応えがあります。私が提唱する「経験代謝」にとても興味を持って、これから深めたいと話してくださる方もいます。
こういうことを伝える場は案外ないので、キャリア会員だけでなく、CDAの中にもリフレッシュセミナーや啓発交流会、勉強会などが広がればいいと思っています。

立野会長の新著『経験代謝の世界~問いかける辞書~』が、そういう役割も持つのでは?

話を聞いたり関わったりすることで世の中が良くなる存在になってほしい

立野 あの本をネタに、あちこちで勉強会が生まれてくるといいですね。本を読んでも「何が書いてあるのかわからない」という人は多いのですが、勉強会に参加して「こういうことだったのか」とわかる人は結構います。

佐々木 そういう双方向のやり取りの場はぜひ続けていただきたいです。次の書籍も楽しみにしています。

最近「AIが発達して、キャリアカウンセラーやキャリアコンサルタントはいらなくなるのでは」といった話があります。

立野 キャリアカウンセリングでは「内省」が重要だとよく語られます。経験代謝も内省の仕組みと言っていい。そして内省は、ビジネスになると思います。ですが、AIには内省ができませんよね。

佐々木 世の中には心を整えるとか、自分を取り戻すとか、自己啓発的な文脈も含めていろいろと内省に関連した取り組みがあると思います。
ただ、「何のために内省するのか」はあまり明確に語られていない気がします。経験代謝で言う内省は「内を省みる」ことがゴールではありませんよね。そこが大事だと思います。

立野 内省は、目的ではなく手段です。私は人間の基本的な欲求には「つながりの幸福」もあると思うのですが、「自分は、本当はつながりの幸福を求めているのだ」としっかり思えるようになることも、内省に関わると思います。

CDAは、カウンセリングを 社会に広げていく存在そのもの

そもそも、CDAとは、どんな存在であるべきだとお考えですか?今 一度、伺っておきたいです。

良さそうな思いつきも、単発だけではなく、事業にして継続する視点を持たなければいけない

立野 身近な人にカウンセリングをする社会的な機能を担う人かもしれませんが、私は CDAには「自分がどういう人間なのか」「CDAの専門性とは何か」をいつも考え続けてほしいと思います。

佐々木 立野さんは以前、経験代謝の講演で「CDAは医者ではない」とか「CDAはいつ CDAになるのか」という問いを大きく出されていました。比喩で、消防士の話もされていました。職務中に火事が起きたら当然火を消しに行くわけですが、仕事でない時に火事に出くわしたら、その人は何なのだろう、と。「自分はそうしなければならない」ではなく、「自分をどう心得ているか」という話だと思いました。

立野
弁護士が増えても世の中が良くなるわけではない、とも話していました。弁護士は活躍する場面が限られているから、弁護士が増えたからといって世の中が良くなるわけではない。
では、キャリアカウンセラーが増えたらどうなるのか。キャリアカウンセラーは、弁護士のように問題が起きてから登場する存在ではなく、存在そのものがキャリアカウンセラーであってほしいと思います。「勤務時間だから」「場が設定されたから」でなく、話を聞いたり関わったりすることで世の中が良くなる存在になってほしい。カウンセリングの場でカウンセラーとしての役割を果たすのはもちろんですが、それだけではないということです。

原氏 佐々木氏

佐々木 悩みがあるから、それを解決するために急に出番が生まれる存在ではない、ということですね。お医者さんが病気の人に薬を出すのは、その人の回復する力を信じて、命に対して働きかけるためです。では、カウンセラーは「何によって立つのか」「何に対して働きかけるのか」。
その問いも、立野さんは大事になさっていました。「ありたい自分のエネルギー」や「ドライビングフォース(原動力)」という言葉を聞いて、CDAとしての自分は何のためにいるのか。何に働きかけるのか。働きかける対象を自分はどのように見ているのか。そういうところが問われるのだと思いました。

立野 佐々木さんに伝わったように、そういうメッセージやマインドは CDA 会員に伝わっているでしょうか?

佐々木 伝わっている人も間違いなくいます。ただ、ピアトレーニングや研修などに参加されない方には、伝わっていないかもしれません。すでに考えてくれている人、わかっている人に働きかけるのではなく、リーチできていない相手に、どうやって届けていくかを考えていく必要があると思っています。立野さん、大原さんからバトンを受け取った私が、これから考えなければならないことです。

「キャリア開発」ではない 「キャリアカウンセリング」を目指して

立野さんは 2012 年の1万人達成大会で「共に生きる」とおっしゃいました。その先に、何があるのでしょうか?

立野 25周年大会で言ったように、学校教育の中に経験代謝が入っていくことが望ましいと思います。中学生、高校生の時に経験代謝的なものに触れることは、人間形成に非常に大事だと思います。社会の仕組みの中に経験代謝的なものが取り入れられ、広がっていく先に、新たな社会が見えてくるのではないでしょうか。そのベースを作ることに、私は興味があります。

佐々木 私は立野さんや大原さんから、オットー・シャーマーやピーター・センゲの本を紹介していただきました。また、アダム・カヘンの著作などを通じて、困難な社会的課題に、利害の対立する人たちがどう取り組むのか、3人で話したこともあります。私は前職が国際機関で、国と国が条約を結び、戦争に至らないように共生の道を探る取り組みを学んできました。ただ、それが本当に機能していれば、もう少し世界は良くなってもいいのではないか、国と国の交渉事に直接関われない一般市民はどうすればいいのか、そんなことを考えていました。
最初にCDAの資格を取った時は、自分らしく生き生きと働く、いわゆるキャリア開発という文脈で学んでいました。経験代謝の話に至る手前の理解でいたと思います。でも JCDAに入って、1万人達成大会の立野さんの「共に生きる」というメッセージを読んで、初めて「何のためにキャリアカウンセリングをするのか」「どの方向に向かって働きかければいいのか」が見えた気がしました。個人に起きていることは、国や組織などの大きな単位にも構造的につながっているということに、とても感激しました。キャリアカウンセリングに取り組むことで、
自分が実現したかった、よりよい社会や、人と人の関係改善に働きかけられるかもしれない。そのことに感動し、広く伝えていきたいと思ったのです。
自分がこの先 JCDAの未来を考える時も、「共に生きる」は大事な柱です。経験代謝は、それを社会に実装する手段だと思います。思想や理念だけでなく、社会が成熟する方向に向かうために具体的に何をすればいいのか。それがキャリアドックの取り組みであり、中学生への経験代謝の展開だと思います。

立野 映画『大唐玄奘』を見ると、唐の都が乱れていることを憂いた玄奘三蔵が、命がけで旅をし、経典を持ち帰ります。でも、経典がもたらされたことで都が良くなったのかというと、そうではない気がします。仏の言葉のようなありがたいものがあるだけではなく、それが人の中に入り、ふるまいになっていかなければ、世の中は変わらないと思います。

原氏、立野氏、佐々木氏

佐々木 そうなんです。たとえば自然環境の保全に関するアプローチには、「温暖化で気温が上がり、北極の氷が溶け、ホッキョクグマが生きていけません。だから生き方を変えなさい」と絶望のシナリオを描いて人を脅すようなところがあります。それも一つの方法かもしれませんが、これだけ情報があって警告されても、人の行動も生活もなかなか変わりません。知識が本当の意味で自分の中に入ってこないから、自分事にならないわけです。
だから、知識として知っていることや、他人事として遠くにある概念が「自分事」になっていくプロセスが、私のテーマでした。その実行手段として、キャリアカウンセリングや経験代謝があります。
中学生や高校生の学びは、知識を詰め込むことだけではありません。自分から遠いところにある存在や概念を、自分の中に取り入れていくメカニズムを知り、「ありたい自分」をベースに、自分も外に対して働きかけられると知ることが重要だと思います。そのあたりがわかってきた時、 この先の人生で取り組む使命がわかったという感覚がありました。立野さんと大原さんにとても感謝しています。

立野 あとは頼んだよ(笑)。

佐々木
頼まれました(笑)。立野さんや大原さんが取り組んでこられたバトンを受け取って、会員の皆さんと社会に働きかけていきます。

最後に読者の皆さまにメッセージを一言ずつお願いします。

立野 一つは「CDAの専門性とは何なのか」を、いつも自分の中に問い続けてほしいということです。「これが自分の役割だ」と決めてしまうのではなく、CDAとしての専門性という視点から、自分を考え続けてほしいと思います。先日、CDA 資格を取った人から「CDAとは何ですか?」と聞かれたんですが、そういうことが起こらないように、CDAとしての意識を持ってほしいと思います。
もう一つ、ネットワークを広げてほしいと思います。JCDAの強みは、組織がしっかりしていること、つながりがしっかりしていることです。全国どこに行っても CDAがいたらすぐに話ができ、助けてもらえるという話を聞きます。そういうネットワークを大事にしてほしいと思います。

佐々木 会員の皆さんにとって、立野さんや大原さんは「雲の上の人」のような存在で、お二人の掲げるメッセージやスローガンを皆さんが、それぞれに取り入れ、形にされていく様子を見てきました。
ですから、自分が理事長になった時、同じように何かを掲げなければならないのかなというプレッシャーもありました。でも、私も一会員であり、一人の CDAです。ですから、私もやるし、皆さんもやる。皆さんが本当の意味で「できそう」「やってみよう」と思えるような文化を一緒に作っていきたいと思います。もしうまくいかなかったら、そこをもう一度考えて、また学ぶ。そのように、学びと実践のサイクルで一緒に取り組んでいきましょう。

ありがとうございました。