死を迎えるまでを生きる――人生の最終章を、どう豊かに生きるか
皆さま、日頃より大変お世話になっております。
JCDAの佐々木です。
今回も、転機研究の第一人者であるナンシー・K・シュロスバーグ先生の最新寄稿をご紹介します。
先生は現在97歳です。今回の記事では、医療検査を受けた経験をきっかけに、身体の衰えや親しい友人との別れ、人に助けを求めることへのためらい、そして死を迎えるまでの時間をどう生きるかについて、率直に綴っておられます。
50代半ばの私には、先生が見ている風景や感じておられること、そして人生の最終章にある方々の思いを、十分に想像することはできないのかもしれません。
それでも、この記事を読んで心に残ったことがありました。
それは、先生が、この記事を読む「誰か」に向けてくださっている愛情とまなざしです。
私はこれまで先生と対面でお会いしたことはありません。それでも、メールでのやり取りや、この記事をあらためて読みながら、なんとあたたかな方なのだろうと思いました。
日々の生活の中で起きている、とても具体的で切実な変化について、仲間とともに語り合い、その経験を真摯に言葉にしてくださっています。
そして、失ったものを悲しむことを大切にしながら、自分のアイデンティティ、人との関係、人生の目的、自分を支えるものを、もう一度見つめ直すことを提案しています。
これまで先生が研究してこられた「4S」や「心理的ポートフォリオ」も、今回の記事では単なる理論としてではなく、先生ご自身が今を生きるための手がかりとして語られているように感じました。
さまざまな年代、さまざまな状況にある皆さまに、先生の言葉をお届けしたいと思います。
先生の記事の全訳
以下に、シュロスバーグ先生の2026年6月26日付USA TODAY寄稿記事の日本語訳を掲載します。
※本稿は、ナンシー・シュロスバーグ先生がUSA TODAYに寄稿された記事について、ご本人のご了解を得て、日本語訳として紹介するものです。
▼外部リンク
Life before death: Making the most of your final years
Nancy K. Schlossberg, Special to USA TODAY(Updated June 26, 2026)
死を迎えるまでを生きる――人生の最終章を、どう豊かに生きるか
ナンシー・K・シュロスバーグ / USA Today特別寄稿(2026年6月26日更新)
あるとき、医師が私の左足首の腫れに気づきました。
それをきっかけに、レントゲン検査、MRI、そして最終的には全身の骨シンチグラフィー検査を受けることになりました。検査報告の中には、がんの可能性を示唆するものもあれば、重度の関節炎を示すもの、さらに詳しい検査が必要だとするものもありました。
私は、まるで死とダンスをしているような気分でした。しかし、なぜか不安にはなりませんでした。私は97歳です。たとえがんだったとしても、私の生活が変わるわけではありません。そして幸いなことに、がんではありませんでした。
正直に言って、この一連の経験に、これほど落ち着いていられた自分自身に驚いています。そして、このことをきっかけに、「最後のダンス」について考えたことを、皆さんと分かち合いたいと思うようになりました。
この時期は特別なものです。ある年齢に達した私たちは、「死を待つ」という最後の転機に向き合っています。
とはいえ、私は自分が年を取ったとは感じていますが、死がすぐそばまで来ているようには感じていません。主治医が言うとおり、私はまだホスピスケアの対象ではありません。ただ、私はその角を曲がればすぐ、というところまで来ています。
本当に問うべきなのは、このことが私の生活にどれほど影響を与えているか、ということです。
私はもう、平気なふりはできません。以前なら、背中や脚が痛くても、何とかほぼまっすぐに立って歩くことができました。しかし今は、本当に杖が必要で、歩行器を使うのが最も楽なのです。
私は、この新たな転機を歓迎しているわけではありません。
例えば、ランジェリーを買い、高齢女性向けのメイクのレッスンを受けるために、ディラーズ・デパートへ行く必要があります。車を運転してディラーズまで行くことはできます。しかし、駐車して、そこから店内まで歩いていくとなると、また別の問題です。
そして、このことは、私の人間関係の変化にも光を当てることになりました。
まず、親しかった友人のほとんどは、すでに亡くなっています。知り合いはたくさんいますが、医師のところへ連れていってほしいと頼める人は、私にはいないのです。
あるいは、本当はいるのかもしれません。ただ、私は頼みたくないのです。今も私の人生に残ってくれている人たちには、介護をしてくれる人ではなく、友人でいてほしいのです。
この人生の時期をより深く理解するために、私がシニア・フレンドシップ・センターで共同リーダーを務める「エイジング・レベルズ――年を重ねる反逆者たち」というグループの一人ひとりに、現在の生活の中で最もよいことと、最も難しいことの両方を言葉にしてもらいました。
そこには、矛盾や恐れ、そして思いがけない出来事があります。ひ孫が生まれるといった喜ばしい出来事もあれば、離婚に向き合うといったつらい出来事もあります。
私たちは、多くの問いと格闘しています。
私は今も、物事をきちんと判断できるのだろうか。
自分自身についての感覚は変わりつつあるのだろうか。
私は今も喜びを感じているだろうか。
私には意味のある人間関係があるだろうか。
私には今も、生きる目的があるだろうか。
自由に、自分自身でいる
何度も繰り返し、幸福の鍵として挙げられたのは「自由」という言葉でした。
ある女性は、こう語りました。
「私の人生には、以前より制約が少なくなりました。夫が亡くなり、子どもたちも親や祖父母になり、私も看護師として働くことをやめたとき、私は自由になったのです」
ほかの人たちも次々に、植物の水やりやペットの世話から自由になった、自分で好きなように予定を決められるようになった、経済的にも自由になった、ただ自分の好きなように時間を使えるようになった、と語りました。
その一方で、大きな困難の多くは、身体的な衰えなど、さまざまな喪失に関係しているという点でも、意見は一致していました。
体力を失うこと。
健康を失うこと。
よく眠ることができなくなること。
能力を失うこともあります。ある男性は、それを次の一言で表しました。
「最近、スマートテレビを買ったことがありますか?」
時間に対する感覚も変化します。時間がもう残されていないように感じることもあれば、反対に、時間を持て余しているように感じることもあります。
私のグループの多くの人が、朝起きる理由がもうないと訴えていました。
そして、ある人は、同時に生じる相反した思いに、どう向き合えばよいのかと問いかけました。
「眠っている間に死ねたらと思います。でも、それと同時に、まだ生きたいとも思うのです」
ほかにも、配偶者やパートナー、子ども、友人との親密な関係が失われていくこと、人生に目的がないと感じること、経済的な問題などが挙げられました。
これほど多くの問いや不安、感情を抱える中で、この時期を意味のある、前向きな人生の時間にするために、私たちには何ができるのでしょうか。
1.経済的なポートフォリオを見直す
ある女性は、年金を受け取ることができた時代に働いていたため、これからも生活を続けていけるだけの余裕があると語りました。
しかし、多くの人にとって、医療保険の給付が削減されることは、この時期の生活を非常に不安なものにします。
ソーシャル・セキュリティの受給をいつ開始するのが最もよいか、ファイナンシャル・アドバイザーに相談してください。必要であれば、パートタイムの仕事に就く人も少なくありません。
2.心理的なポートフォリオを組み替える
経済的なポートフォリオを見直すのと同じように、心理的なポートフォリオについても点検する必要があります。
自分は何者なのかというアイデンティティ。
心の回復力。
自分自身をどのように捉えているか。
他者からどのように見られていると感じているか。
さらに、友人や家族、知人との関係がどの程度しっかりしたものか、そして人生にどのような目的があるかについても、見つめ直す必要があります。
3.自分を支えるものを強くする
これは、私が「4Sシステム」と呼んでいるものです。
4Sとは、次の四つです。
Support――支え
Self――自己
Situation――状況
Strategies――対処方法
まず、自分の置かれている状況全体が、プラスなのか、マイナスなのか、あるいはどちらでもないのかを問いかけてみてください。
個人的な支えや、制度的な支えはありますか。
自分自身を、肯定的に見ていますか。それとも否定的に見ていますか。
自分は楽観的だと思いますか。それとも悲観的だと思いますか。
そして最後に、複数の対処方法を使っていますか。
時には、苦しみの原因となっている問題そのものを解決しようとすること。
別の時には、否定的に見えることの捉え方を変えようとすること。
そして、運動をしたり、呼吸を整えたり、心身を癒やすためのほかの習慣を取り入れたりすることです。
4.すべての卵を一つの籠に入れない
あなたが作家で、もう書くことができなくなったら。
あなたが泳ぐ人で、もう泳ぐことができなくなったら。
あなたがパイロットで、もう飛ぶことができなくなったら。
そのとき、あなたはすべてを諦めてしまうのでしょうか。
願わくは、答えが「いいえ」であってほしいと思います。
失ったものを悲しむことは大切です。そして、時間をかけながら、自分のアイデンティティの別の部分へと移っていくのです。
5.死に対する姿勢を少し調整する
ニューヨーク・タイムズの記事によると、故ジェーン・グドール博士は、人生の終わりについて美しい言葉を残しています。
「私はいつも人々に、次の冒険は死ぬことだと言っています。そこに何もないのなら、気にすることもありませんよね。あるいは、そこに何かがあるのなら――私はあると信じていますが――それが何なのかを知ること以上にすばらしい冒険を、私は思いつくことができません」
ナンシー・K・シュロスバーグ
メリーランド大学名誉教授。著書は10冊あり、『Too Young to Be Old』『Revitalizing Retirement』『Retire Smart, Retire Happy』などがある。
終わりに
この記事は、人生の最終章にある方だけに向けられたものではないと思います。
私たちは年齢にかかわらず、これまでできていたことができなくなったり、大切な役割や人との関係を失ったり、「これから何を支えに生きていくのだろう」と立ち止まったりすることがあります。
「生きる」とは、特別な答えを見つけることではなく、変化や喪失、矛盾を抱えながら、それでも今ある一日に向かっていくことなのかもしれません。
「死を迎えるまでを生きる」という先生の言葉は、遠い先のことではなく、私たち一人ひとりに、今日という一日をどう生きるのかを問いかけているように思います。
その問いに、すぐに答えが見つからなくてもよいのだと思います。自分の経験や今の思いを誰かに語り、共に見つめていくなかで、これまでとは少し違う景色が見えてくることがあります。
私たちCDAも、そうした時間に寄り添い、その方がご自身の歩みと、これからの日々を見つめていくための伴走者でありたいと願っています。
日本キャリア開発協会(JCDA)
理事長 佐々木 好
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