皆さま、日頃から大変お世話になっております。
JCDAの佐々木です。
先月11月は、「キャリアマンス(Career Month)」として、日本各地でキャリアについて考える様々なイベントが開催されました。
JCDAが主催した 人生すごろく「金の糸」キャリアワークショップ も多くの方が参加くださり、温かなコメントが寄せられています。
今年は世界中でキャリアに関する発信がとても活発で、SNSでも各国の議論が飛び交い、国際的な盛り上がりを見せた1か月でした。皆さまも、何かのイベントや勉強会に参加されたでしょうか。
私は 11月21日、APCDA(アジア太平洋キャリア開発協会)が主催した Global Careers Month 2025 イベントの国際パネル “Strengthening Career Development in the Asia Pacific and Beyond” に登壇しました。
アジア太平洋・北米を中心に、キャリア開発をリードする専門家が一堂に会し、経済・社会・文化・メンタルヘルスなど幅広いテーマを議論する貴重な場でした。
なかでも、NCDA(全米キャリア開発協会)の元会長3名が登壇され、JCDA名誉会員の Dr. Spencer Niles、またJCDA HPにもメッセージを寄せてくださった Dr. Seth Hayden とご一緒できたことは大変光栄でした。
モデレーターはAPCDA理事の Dr. Sini Parampota。
2018年の清華大学でのAPCDA大会以来のご縁で声をかけていただき、英語がネイティブでない私にも丁寧にご配慮くださり、緊張しつつも安心して参加できました。
本記事では、その議論の一部をご紹介します。
■ 今、なぜキャリア開発が重要なのか?
パネリスト全員から語られたのは、
「世界があまりにも速く、大きく変化し続けている」という現実 でした。
・急速なデジタル化・AIの進展
・人口構造の変化
・社会・経済の不安定化
・仕事の寿命の短命化
この中で、多くの人が「これからどう生きて働くか」を見失いがちです。
私は、日本の状況として、
・若手の高いキャリア不安
・中小企業の人的資本経営の遅れ
・高齢化に伴う“長く働く”時代の到来
などの課題に触れ、キャリア支援者は、人と社会の両方をつなぐ存在であることをお伝えしました。
■ アジア太平洋地域でキャリア開発を強くするために
◆ 情報とスキルの“見える化”
世界各国で、スキル・学び・仕事に関する情報格差が大きな課題となっています。
シンガポールの取り組みでは、
・キャリアヘルス運動
・誰もがアクセスできるスキル情報、データの”民主化”
・「取り残さない支援」
が進められています。
私はその一方で、デジタルツールは重要だが、情報を“意味づける”人の支援は代替できないという点をお話させていただきました。
◆ コミュニティ単位での支援
中小企業や地域社会の中で、「共に学び、支え合う仕組み」をどうつくるかは多くの国で共通する課題です。
特に印象に残ったのは、インドの専門家からの次の言葉でした。
「アジア太平洋地域には、生きるための基本的な選択肢すら持てず、機会に閉ざされた人々が大勢いる。キャリア開発は、その両方の現実に応える必要がある。」
キャリア開発の意義は、単に「選ぶ」だけではなく、「希望や道筋にアクセスできるようにすること」にまで広がっています。
◆ 一人ひとりの“物語”への敬意
変化の時代、よりどころになるのは 自分の価値観・強み・願い。
JCDAが大切にしている 自己概念の成長 は、国際的にも共通のテーマでした。
その中で、次の言葉に深く心を動かされました。
「人間は練習なしに変化に対処できない。
キャリア開発は、人が『自分はここにいていい』と思える“Grounding(支え)”をつくること。」
CDAの役割は、さらに広く、そしてもっと深い・・・そう感じました。
■ キャリアとメンタルヘルスは切り離せない
今回、特に深い議論となったテーマです。
・自己決定によるキャリア選択はメンタルの安定につながる
・一方、不本意な選択はストレス・抑うつ・不安のリスクを高める
・キャリア相談は、最初にメンタルの課題が表面化する場になり得る
・レイオフ・失業は“喪失体験”で、トラウマインフォームドな姿勢が不可欠
といった重要な示唆がありました。
また、次の言葉が印象に残りました。
「アジア太平洋地域には、メンタルヘルスの専門家が十分にいない国もある。
だからこそ、キャリア実践者の専門性の向上やエコシステムの整備が不可欠だ。」
キャリアの領域が「予防」「早期発見」「安全な対話の場」として大きな役割を担っていることがよく分かります。
■ 文化がキャリアに影響するという視点
文化・家庭・社会的規範は、人々のキャリアやメンタルヘルスに深く影響します。
紹介された事例の一つは、
工学系の女子学生が、自宅での家事負担を一人で背負い、成績を落として深く悩んでいたというもの。家族の文化的背景や性別役割への期待が、彼女のキャリアと心の健康に影響していました。
このように、相談者の
・文化
・宗教
・家庭環境
・個別の価値観
を理解しなければ、本質的なキャリア支援はできません。
多文化共生の中で「文化的謙虚さ(cultural humility)」が重要だという発言がありましたが、これは日本での実践にも大切な視点です。
■ 結び:違う文化でも、目指す未来は同じ
今回のパネル全体を通じて見えたのは、国や文化を越えて共有できる3つの価値でした。
◆ アドボカシーの継続
キャリア支援者が声を届け続けることで、キャリア開発は「見える存在」となり、社会的な価値として確立していきます。
◆ 共通の目的
国や文化は違っても、
「人々が学び、成長し、可能性を見つけていくことを支える」
という目的は同じです。
◆ 対話の継続
今回の議論は終わりではなく、これから続く国際対話の出発点です。
JCDAとしても、日本の経験や実践を共有しながら、世界の知見を学び、皆さまと共に歩みを進めていきたいと思います。
JCDA理事長 佐々木 好
参考:
JCDAのグローバルな交流
APCDA(アジア太平洋キャリア開発協会) (外部リンク)
NCDA(全米キャリア開発協会) (外部リンク)




