目次

皆さま、日頃より大変お世話になっております。JCDAの佐々木です。

『JCDAジャーナル』創刊100号を記念して、創刊0号と100号の中から、今あらためて皆さまにお読みいただきたい記事をご紹介するシリーズをお届けしています。

第1回の「『JCDAジャーナル』創刊にあたって」では、2000年12月に発行された創刊0号から、当時専務理事だった立野了嗣会長の巻頭挨拶をご紹介しました。

第2回の「私にとってのJCDAジャーナル」では、100号に寄せて大原良夫特別顧問(前理事長)が振り返った、ジャーナルとJCDAの25年以上にわたる歩みをご紹介しました。

そして第3回となる今回は、もう一度、創刊0号へ戻ります。

創刊0号には、2000年10月26日、ホテルセンチュリーハイアット東京で開催された、日本キャリア開発協会設立記念「キャリアカウンセリング・フォーラム」の模様が収録されています。

このフォーラムに掲げられたテーマは、

「キャリアカウンセリングが日本を変える」

でした。

そして、その第1部で基調講演を行ったのが、転機(トランジション)理論の開拓者であり、JCDAの名誉会員でもあるナンシー・K・シュロスバーグ先生です。

講演タイトルは、「キャリアカウンセリングと人生における『転機』」

そこで語られているのは、予想した転機、予想しなかった転機、そして「起こると思っていたことが起こらない」ノン・イベント。

転機を一時点の出来事ではなく、時間をかけて進んでいくプロセスとして捉える視点。

そして、転機に向き合うための「4S」――Situation(状況)、Self(自分)、Support(支え)、Strategy(戦略)です。

CDAキャリアコンサルタントとして学んできた方には、よく知られた考え方かもしれません。

けれども、25年以上前に実際に先生が日本のキャリア支援者を前に語られた言葉として読み返してみると、理論の説明だけではないものが伝わってきます。

なかでも今回、私があらためて心に残ったのは、

「オプションがないと思ったときに、つくり出していく」

という言葉です。

キャリア支援者は、その人が今、その転機をどのように経験しているのかを、共にその景色を描きながら、その人が持っているものや周囲の支えにも目を向け、まだ見えていない選択肢や可能性を一緒に探していく。

JCDAが設立されたその時期に語られたこのメッセージは、25年以上を経た今も、私たちに問いかけているように感じます。

それでは、創刊0号に掲載された基調講演を全文ご紹介します。

※以下は『JCDAジャーナル創刊0号』に掲載された講演記事を、当時の表記を尊重して再掲するものです。団体名、役職、用語等は掲載当時のものです。


日本キャリア開発協会設立記念

キャリアカウンセリング・フォーラム

「キャリアカウンセリングが日本を変える」

平成12年(2000年)10月26日
ホテルセンチュリーハイアット東京


基調講演

キャリアカウンセリングと人生における「転機」

NCDA(全米キャリア開発協会)1999年度会長

ナンシー・K・シュロスバーグ

全米キャリア開発協会(NCDA)は1913年に設立され、約1万人の会員がいます。このNCDAの使命は、専門家のカウンセラーとキャリア・デベロップメント・アドバイザー、大学のカウンセラーエデュケーター、教育者、企業の担当者などいろいろな人たちと、いろいろな状況のなかでキャリアデベロップメントを進めていこうというものです。これは、日本キャリア開発協会の使命と同じものです。

たとえば、NCDAではいま、刑務所と一緒にプログラムをつくっています。刑務所にはたくさんの囚人がいますが、出所後に行く場所がありません。キャリア・デベロップメントもないのです。そこで、NCDAがトレーニングのプログラムをつくっているわけです。キャリア・デベロップメント・アドバイザーに刑務所のなかで仕事をしてもらい、囚人の人たちがどこかへ行って仕事ができるようにしてあげようと考えています。

このように、NCDAは動いている、進行中の組織です。この組織に、いまとても興味深い転機が訪れました。それは、日本キャリア開発協会が、NCDAと協力してキャリアデベロップメントをしていこう、と名乗りをあげたことです。来年6月にNCDAの総会があり、そこで日本キャリア開発協会が最初の国際関連団体として認められると思います。

転機のモデル

私が何年もかけてつくってきた「転機のモデル」には、3つの部分が含まれています。1番目は、変化を見定めることです。次に、自分には何があるのか、自分は何を持っているのかを見ていきます。それから、自分で引き受けてやっていくというのが3番目になります。これらの話をする前に、どうしてこのモデルが開発されたのか、少しお話ししたいと思います。

何年も前のことですが、私たち家族は、引っ越し先のデトロイトからワシントンDCに戻ろうと決めました。私たちはデトロイトがとても気に入っていましたが、そこで最期を迎えるのはいやだと思ったのです。これはとても大きな転機でした。ワシントンで夫は仕事があったし、私も仕事が見つかり、子どもたちもいるし、友だちもいる。だから、新しい生活は簡単だろうと思ったのです。ところが、私はこの転機でたくさん問題を抱えてしまいました。どうしてそうなってしまったのか、自分で理解できませんでした。この転機は自分が望んだ、いい転機のはずだったのに、どうしてうまくいかなかったのだろう、と。そこから、私は考え始めたのです。

一連の研究を、そこを基盤に始めました。その研究を通じて、人々がどうやって転機に対処しているのかを理解しようと思ったのです。たとえば、引っ越しをする人々について、また学校に戻る成人の人たちについても研究しました。仕事がなくなってしまった人たちのことも調べましたし、仕事と家族のバランスを保とうと一生懸命やっている事務職の人たちの調査もしました。昇進ができなかった人、子どもが生まれなかった女性、キャリアがほしかったのに手に入らなかった人たちなど、いろいろな種類の転機を研究しました。

そのなかで私は、他の研究者の協力を得ながらモデルをつくったのです。まず、1番目の「変化を見定める」ということですが、転機を迎えるとはどういうことでしょうか。転機にはいろいろなタイプがあります。たとえば、予想した転機というのがあります。これは誰でも迎えるような転機で、結婚する、親になる、子どもを持つ、仕事を初めて持つ、退職する、というようなものです。次に、予想しなかった転機というものもあります。たとえば、病気になる、手術を受ける、事故を起こす、思いがけない昇進、突然の工場閉鎖、というようなものです。

3番目は、われわれが「ノン・イベント」と呼んでいるものです。予想していたことが起こらなかったというものです。たとえば、結婚するだろうと思っていたのに結婚しなかった、終身雇用されるだろうと思っていたのに不況のためにそうならなかった、というものです。ハッピーなケースとしては、癌と宣告され死期を待っていたが、10年たっても元気に生きているという男性がいます。

このように、転機にはいろいろな種類があるわけですが、ここで転機というものの定義をしてみたいと思います。イベント、つまり何かが起こること、あるいは起こりそうなものが起こらなかったこと、こういったことによってわれわれの人生、生活が変わるようなもの、これを転機と呼びます。そして、われわれの人生、生活が変われば変わるほど、われわれはそれに適応するための努力をしなければならないのです。

たとえば、前述したデトロイトからワシントンへの引っ越しの話ですが、すべてのものが変わりました。ウェインステート大学教授という私の役割も変わりました。また、デトロイトの知人とも離れなければなりませんでした。私の日常生活も、私のものの見方、考え方も変わりました。こんな引っ越しという、ごく日常茶飯事な出来事であっても、びっくりするような結末、顛末に至ることもあるのです。

このように、転機それ自体が問題ではないのです。その転機によって役割が変わる、人との関係が変わる、日常生活が変わる、考え方が変わる、この変わる程度というものが大きな問題なのです。たとえば、皆さんが仕事を失ったら、世界観はどう変わるでしょうか。日常生活や対人関係はどう変わってくるでしょうか。こういったことを考える必要があるわけです。

転機を考えるとき、もう1つ考えるべきことがあります。それは、転機というのは一度にどっと起こるわけではないということです。転機というのは1つのプロセスです。したがって、ある時間を経過して徐々に起こってくるものなのです。転機というのは、時間がかかります。したがって、皆さん方が感じる感情も、時間がかかるわけです。

デトロイトへの引っ越しは、初めのうち、私にとっては非常に悲しい出来事でした。しかし、時間がたつにつれて私の反応も変わってきました。自分の役割も人との関係、日常生活も変わり、私の人生が新しい展開を見せ始めたのだ、と考え方を変えたわけです。

このように、転機は時間がたつにつれてだんだんに変わってくる1つのプロセスだととらえてください。このことは、とても重要です。キャリア・デベロップメント・アドバイザーとしても、このことをぜひ覚えていただきたいと思います。皆さんが仕事をする際、クライアントのリアクションが変わるという瞬間があると思います。

次は、モデルの2番目の部分についてお話しましょう。これは、モデルの中核部分といってもいいところです。自分たちのリソースを点検する、変化に対応するために自分にいま何があるのかを確認するということ、「4Sのシステム」と私が呼んでいるものです。

4Sは、自分たちが持っているリソース、変化に対応するために自分には何がいまあるのかというのを分析するときに使います。

このリソースは、シチュエーション(状況)、セルフ(自分)、サポート(支え)、ストラテジー(戦略)の4つに分けられます。

シチュエーションというのは皆さんの状況です。転機を迎えた瞬間の皆さんの状況はどうなっているのか、皆さんの人生、生活にどのようなことが起ころうとしているのか、ということ。セルフは皆さんの内側にあるリソースの内容です。皆さんが持っている資質、その変化に対応する力です。サポートは皆さんが転機の際にどういう支え、支援を得られるのか、ということです。ストラテジーは、どんな戦略があるか、どんな策を持っているかということです。

変化に対しては、3つのやり方があります。

1つは、気に入らない転機だったら、それを変えようとするかもしれません。2つ目は、それが変えられないものだったら、その見方を変えようとするかもしれません。3つ目は、この転機から気をそらしてくれるようなことをやってみようと思うかもしれません。

転機を乗り切る

最後に、転機をどうやって自分が引き受け、乗り切っていくかということについてお話しましょう。私たちがやったリサーチの話です。NASAで大きなダウンサイジングが起こりました。

仕事がなくなってしまった人たちに対して、われわれは1週間後にインタビューし、6か月後にもう一度インタビューしました。私がインタビューした人はアーティストで、自分には影響はないだろうと思っていました。ところが、上司から「さよなら」を言われ、椅子から動けなかったそうです。なぜかというと、彼の状況があまりにもひどかったからです。奥さんは家を出てしまい、父親は末期癌で、さらに彼はサポートをも失っていたのです。しかし、私がインタビューしたもう1人の人は、NASAの草刈りをする人で、「NASAで仕事ができなくてもかまわない。レーガン空港に行って、また草を刈ればいい」と言いました。

このように、1つのダウンサイジングによっていろいろな人が影響を受けたのですが、人によって状況の見方が違いました。仕事を失ったわけですから、すべての人が同じ転機に直面したはずです。しかし、それぞれの人が違う評価をしたのです。プラスだと見る人もいれば、マイナスだと見る人もいました。これがキャリアデベロップメント・アドバイザーのすべきことなのです。つまり、このクライアントはいま、その状況、転機をどう見ているのだろうか、ということを知らなければならないのです。

次にやるべきことは、リソースを見ることです。この転機を乗り切る、対処するために持っているものは何かを見るのです。先ほどの話では、アーティストは何もないと考えました。しかし、草を刈る人はたくさんあると考えていました。クライアントに対して、弱いところのリソースは何か、そして、それを強めるにはどうしたらいいかということを考えるわけです。

NASAが何をやったか、説明しましょう。仕事を失ったすべての人が、人材部の人とペアを組みました。そして、失業した人が次の仕事を見つけるまで、その相手と一緒にいるということをやったのです。アーティストのケースでは、人材部の人がコミュニティーの劇場を見つけて、そのアーティストは新しい劇場で仕事を見つけました。

しかし、多くの人々は、このような組織からのサポートを受けることができません。仕事を失ったときには、放り出されてしまいます。したがって、自分でその転機に対処しなければなりません。そのときには、状況、自分自身、サポート、戦略を見て、何が足りないのかを考えるのです。私は何をしなければならないのか。たとえば新しいサポートが必要だったとしたら、新しいグループを探して、そこに入っていくことができるでしょう。

たとえば、仕事を失ったとします。そのときには選択肢があります。たとえば、仕事をもう一度取り戻すというチョイスがあります。あるいは、別のトレーニングを受けて再雇用してもらうというのもあります。また、キャリア・デベロップメント・アドバイザーの助けを借りる、というのもあります。

さらにまた、新しいオプションをつくり出すということがあります。キャリアデベロップメント・アドバイザーや政府の人々、私たちすべての仕事というのはオプションをつくっていくことです。オプションがないと思ったときに、つくり出していくことなのです。

例を挙げたいと思います。

最近の話ですが、私はラジオ番組で話をしました。リスナー参加型の番組ですが、ある女性が話をしてくれました。彼女は小児科医で、結婚していて、子どもが1人います。ところが、ひどい事故にあい、体が不自由になってしまったというのです。そして、私のキャリアは今後どうなるのだろうかというのです。

私は彼女の話を聞いてびっくりしましたが、「必ずオプションはある、いまは見えなくても、必ず選択肢はある」と話を始めました。「たとえば、あなたの声は非常にいい声で、強い声を持っている。状況としては悪くない。支援もある。だから、しなければならないことは何かといえば、新しい選択肢をつくり出すことなのではないか。たとえば、ニュースレターの編集をする、別の小児科医のため、あるいは子どもの親のために、こういうラジオショーで話をしたり相談にのったりすることができる。自分で診療をしなくても、ほかの小児科医を助けたり、あるいは子どもの親の相談にのったりするということはできるはずだ」と話したのです。

このような手伝いをするのが、まさにキャリア・デベロップメント・アドバイザーの仕事なのです。皆さんのクライアント、相談相手に対してどこにオプションがあるのか、どこに選択肢があるのかというのを見つける手伝いをする、これがキャリア・デベロップメント・アドバイザーの仕事なのです。

私の話の最後に、ヘンリー・ミラーの言ったことを引用したいと思います。

彼は次のように言いました。いくら周到に作戦を練って計算をして、そして準備をしたとしても、必ず皆さんが予想していなかった思いがけないことに遭遇するわけです。それだけは何をおいても確実なことです。必ずサプライズはあるということです。


25年以上を経て、あらためて読む「転機」

いかがでしたでしょうか。
2000年に語られた講演ですが、今あらためて読んでみても、古さを感じさせないことに驚きます。

予想した出来事だけでなく、突然起きた出来事や、期待していたことが起こらない「ノン・イベント」も転機になり得ること。

同じ出来事に直面しても、その人が置かれている状況や、それをどのように受け止めているかによって、転機の意味は異なること。

そして、転機はある一点で起きて終わるものではなく、時間をかけて経験されていくプロセスであること。

どれも、日々、相談者の人生に向き合う私たちにとって、大切な視点だと思います。

なかでも今回、あらためて心に残ったのは、

「このクライアント(相談者)はいま、その状況、転機をどう見ているのだろうか」

という言葉です。

転職、退職、異動、家族の変化、あるいは、望んでいたことが実現しなかった経験。
外から見れば同じような出来事であっても、それが本人にとってどのような意味を持つのかは、一人ひとり違います。
だからこそ、その人が何を経験しているのかを理解しようとすることが、支援の出発点になるのだと思います。

そして、もう一つ。

「オプションがないと思ったときに、つくり出していく」

という言葉も印象に残ります。

今は選択肢が見えなくても、その人のありたい姿や、周囲の支えを一緒に確かめながら、新しい可能性を探していく。
それは、25年以上を経た今も、キャリア支援の大切な役割の一つなのではないでしょうか。

創刊0号を開くと、この講演が、JCDA設立記念「キャリアカウンセリング・フォーラム」の基調講演として掲載されていることに、あらためて感慨を覚えます。

JCDAが生まれたばかりの頃、日本のキャリア支援者たちは、この言葉をどのように聞いたのでしょうか。
そして100号を迎えた今、私たちはこの言葉をどのように受け取るのでしょうか。

25年以上の時間を隔てて、同じ講演をもう一度読むことそのものに、今回の100号記念企画の意味があるように思います。

今回で、創刊0号と100号を振り返る「JCDAジャーナル100号記念」3回シリーズは一区切りとなります。

次の記事では、100号に掲載した立野了嗣会長と私との記念対談をご紹介します。

創刊から四半世紀を経て、これからCDAは何を大切にしていくのか。
ぜひ、続けてお読みいただければと思います。

JCDA理事長 佐々木 好


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