香港のMatthew Sinさんと語る 「仕事」を超えた、生涯にわたるキャリア支援
皆さん、こんにちは。JCDA佐々木です。
2026年9月3日、香港でキャリア開発の普及と実践者育成に取り組むMatthew Sin(冼政喬)さんと、オンラインでお話しする機会をいただきました。
8月25日に開催されたAPCDA(アジア太平洋キャリア開発協会)のInternational Collaboration Workgroup(ICW)の会合でお会いしたことをきっかけに実現した今回の対話。30分ほどの予定でしたが、共通する話題が次々に見つかり、気づけば約50分が経っていました。
| ◆Matthew Sin(冼政喬)氏 プロフィール◆
生涯發展學院(Life Development Institute:LDI)Chairman/Executive Director、香港生涯規劃協會(Hong Kong Life Planning Association:LPAHK)Honorary President、APCDA Hong Kong Representative。 NCDAのCertified Master Trainer of Career Developmentであり、教育におけるポジティブ心理学の修士号を持つ。2016年にLPAHK、2020年にLDIを設立。国際的な専門家をつなぎながら、キャリア開発を軸としたエコシステムづくりを進めている。これまでにアジア太平洋地域の700を超える学校・組織と連携し、10万人以上の教員・学生にプログラムを届けるとともに、教育、社会福祉、産業分野で1,000人を超えるファシリテーターを育成している。 |
「仕事を選ぶ」だけではないキャリア支援
香港でキャリア開発という考え方が本格的に広がり始めたのは、この10年ほどのことだそうです。
当初は学校や大学で若者を支援する活動から始まりましたが、若者自身が夢や目標を持っていても、保護者や教員の価値観によって、その選択肢が狭められてしまうことがあります。そのため現在は、若者だけでなく、教員、保護者、ソーシャルワーカー、人事担当者、管理職など、若者や働く人を取り巻く人々の育成にも力を入れているとのことでした。
Matthewさんが大切にしているのは、キャリアを単なる就職、収入、進学の問題として捉えないことです。
自分は何を大切にしているのか。
どのような人生を送りたいのか。
人生の各段階で、どのような役割を担い、人とどのような関係を築いていくのか。
そして、自分の願いを社会の現実の中で、どのように行動へ移していくのか。
こうした「人生(Life)」を中心に据えたキャリア開発の考え方は、長寿化が進む日本において、JCDAが大切にしてきた方向性とも深く重なります。相談者が何を経験し、どのように感じ、そこからどのような意味を見いだしていくのかを大切にする点にも、強く共感しました。
資格取得を「出発点」にするために
もう一つの大きなテーマは、キャリア支援者の専門性をどのように育て続けるかということでした。
日本には約87,000人の国家資格キャリアコンサルタントがおり(2026年7月末時点)、JCDAにも約22,000人の会員がいます。しかし、資格を取得しただけで、専門家としての成長が約束されるわけではありません。継続的な学習、倫理、振り返り、スーパービジョン、そして専門家同士が孤立せずに学び合えるコミュニティが欠かせません。
香港でもNCDA(全米キャリア開発協会)の資格が活用されていますが、海外の理論や枠組みをそのまま導入するだけでなく、香港やアジアの文化・社会状況に合った支援方法を、実践と研究を通じて築いていく必要があるとMatthewさんは話します。
Matthewさん自身も、教員、ソーシャルワーカー、人事担当者、管理職などを対象に、支援者を育てる「トレーナーの育成」に取り組んでいます。理論を現場で実践し、その有効性を確かめながら、さらに多くの仲間へ広げていく。その姿勢にも、実践者として大いに刺激を受けました。
社会全体をつなぐエコシステム
キャリア開発を、一部の学校や企業だけの取り組みにとどめないことも、私たちに共通する問題意識でした。
学校、企業、行政、専門家、保護者、地域など、さまざまな人や組織がつながり、それぞれの実践や経験を持ち寄ることで、キャリア開発を支える社会的なエコシステムが生まれます。
JCDAでも、多様な領域で活動する会員が、地域や所属を越えて学び合い、自主的に活動しています。こうした会員のネットワークはJCDAの大切な財産であり、その経験を海外の実践者とも共有していけるのではないかと感じました。
日本と香港をつなぐ次の一歩
今後の交流についても、さまざまな可能性が話題になりました。
記事や実践事例の相互紹介、オンラインセミナー、研修や資格制度に関する情報交換など、言語や地域を越えて学び合う方法は数多くあります。AIによる翻訳なども活用すれば、これまで以上に交流の可能性が広がりそうです。
Matthewさんは、APCDA 2026マレーシア大会でJCDAが協力した人生すごろく「金の糸」(Life Journey Board Game: The Golden Thread)にも関心を寄せてくださいました。将来、香港の皆さんに体験していただくワークショップも実現できればと思います。
また、香港では、APCDA大会の招致に向けた準備が進められています。私からも応援の意をお伝えしました。香港には日本への関心が高い方が多く、Matthewさん自身も毎年のように日本を訪れているそうです。そうした親しみも背景に、日本でのAPCDA大会開催の可能性にも話題が広がりました。(日本では、2015年にAPCDA東京大会が開催されました)2030年はJCDA創立30周年に当たります。国際的な交流をどのように重ねていくか、これから考えていきたいと思います。
Matthewさんは、率直で温かく、考えたことをすぐに行動へ移していく、とてもエネルギッシュな実践者でした。香港では、日本を「もう一つの故郷」のように感じている人も多いそうです。
日本と香港には、社会や文化の面でも共通する課題があります。今回の対話を出発点として、お互いの経験から学び、小さな共同実践を一つずつ形にしていければと思います。
JCDA理事長 佐々木 好
APCDAについて
APCDA(Asia Pacific Career Development Association/アジア太平洋キャリア開発協会)は、アジア太平洋地域を中心に、キャリア開発の専門家、実践者、研究者、教育関係者などをつなぐ国際的な専門職団体です。各国・地域の実践や研究の共有、専門家の交流、キャリア開発に関する理論と実践の発展に取り組んでいます。
ICWについて
ICW(International Collaboration Workgroup)は、APCDAが2025年8月に立ち上げた国際連携のためのワークグループです。各国・地域のキャリア開発関連団体の代表者などが参加し、団体間の情報交換や共同企画、キャリア開発の社会的な認知向上に向けた国際協力の可能性を検討しています。
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